【前編】持ち前のアクティブさと決断力で、次々と「移住先ならではの活動」を始める

都心を離れ地方で暮らす方に、移住についてありのままを伺うシリーズ。今回は、東京都中央区から長野県上田市に移住した辻さんにお話を伺いました。

文/長井杏奈


環境に対する疑問を感じ、都心から千葉県いすみ市へ移住

―本日はよろしくお願いいたします。まずは簡単な自己紹介と、移住までの流れを教えていただけますか?

初めまして、辻です。私は編集・ライターの仕事と、シェアハウスの運営などをしています。現在は夫と長野県上田市に住んでますが、もともとは東京都中央区勝どきにタワーマンションを購入し、そこで暮らしていました。その後、千葉県いすみ市に移住し、今は信州で暮らしているという流れです。

写真は今回お話を伺った辻さん。パワフルでアクティブ、そして実行力のある女性でした!

―都内にマンションを購入されていたとのことですが、なぜいすみ市に移住されたのですか?

食の安全性と、ゴミ問題に疑問を感じたからです。私は無農薬野菜の宅配サービスを利用していたのですが、届くたびに段ボールや緩衝材のゴミが出ていました。それがストレスだったのですが、安心・安全なものを口にしたいという思いもありました。

そこで考えたのが、「わざわざ宅配してもらわなくても、顔の見える農家さんから買える環境に住めばいいのではないか」ということです。当時から編集・ライターをしていたためネット環境があればどこでも仕事ができることもあり、移住を決めました。


―移住先としていすみ市を選ばれたのはなぜですか?

あのエリアはマクロビ(マクロビオティック:自然と調和した健康な暮らしのため、野菜、穀物、海藻などを食べる考え方)志向のカフェがあったり、国産小麦と天然酵母にこだわったベーカリーがあったりと、健康意識の高い方が住んでいるイメージがあったためです。

また、都心からの距離は湘南と同じくらいでしたが、そういった場所に比べて家賃や物価が安かったこともメリットだと思いました。

 

―移住のきっかけとエリアの環境が、マッチしていたんですね。いすみ市を離れたのは、どういった理由があったのですか?

主な理由は、東日本大震災です。原発事故の影響で計画停電が予想され、エアコンなしで房総で暮らすのは大変だろうと思い、信州なら涼しいのではないかと考えました。

そこで、たまたま長野県上田市に築150年の素敵な古民家を見つけました。実は、いすみ市に引っ越すときも古民家を探していたのですが、いい物件が見つからなかったという経緯があります。次こそはと思っていた時に出会ったので、ここで暮らそうと思いました。



長野・ ペルー・エルサルバドルの3拠点生活を経て信州に物件をセルフビルド

―信州への移住は、どのくらいの期間がかかりましたか?

2011年3月から家探しを始め、8月に引っ越しました。もっと早く移住できたのですが、大家さんの受け入れ準備の関係でそのタイミングでした。また、契約上2年間で出て行かなければならなかったので、古民家に住みながらまた新しい家を探していました。


―次の物件はすぐ見つかったんですか?

いえ、なかなか見つかりませんでした。そうこうしているうちに今の夫に出会い、彼の長期出張についていき、さまざまな国に滞在する生活になりました。私はどこでも仕事ができるので、長野と、インド、ベトナム、ラオス、中国などの国を行き来する生活を2年ほど続けました。

2014年に結婚し、夫の南米駐在に伴って長野、ペルー、エルサルバドルの3拠点を軸に生活しました。あちこち移動するので大変なこともあったと思いますが、楽しいこと以外は忘れてしまうタチなので、あまり覚えていません。慣れないスペイン語圏での生活も翻訳アプリやタクシー配車アプリなどを活用して、楽しく過ごしていました。

ペルー・アマゾンのマーケットで買い物。「これがホントのアマゾンショッピングです(笑)」と辻さん。

―なかなか経験できない、すごく面白そうな生活です。その後、どういった経緯で信州での暮らしが始まりましたか?

上田市に引っ越してから家を探していたのですが、なかなか理想の物件が見つかりませんでした。そんなときに「土地なら譲れる」という話があったんです。そこは標高が高く上田市街を見下ろせ、遠くには北アルプスも望める素敵な場所で、ここに自分たちで家を建てようと決めました。

3拠点時代、ひとところに留まらずあちこちに移動する生活を楽しんでいた

3拠点生活をしながら、一時帰国している間にコツコツと家つくりをしました。基礎と水回りはプロに頼み、外壁を貼ったり洗面所をつけたりといったことは自分たちでやるという形です。もともとライターをしながら、カフェ経営して店舗をリノベーションしたり、持っている不動産をセルフイノベーションした経験があったので、気持ちの面でハードルは低かったですね。

よく、移住をきっかけに古民家をセルフビルドしたいという方がいますが、お金の節約が目的ならあまりおすすめできません。素人は段取りが下手なので、どうしても作業に時間がかかってしまいます。そのぶん仮住まいの家の家賃も余分に払うことになってしまいますから。こういったことが好きな方なら、楽しんでやれると思います。



移住希望者がゆっくり物件を探すための「移住お試しシェアハウス」を運営

―ライターという本業をやりながら、色々なご経験があったんですね。現在は長野県に腰を落ち着けてシェアハウスを運営されていますが、どういった経緯があったのですか?

2019年に夫が退職したのを機に、やっと信州をベースとした暮らしが始まりました。シェアハウスについては、信州にはこれだけ空き家があるのに、家を新築したことにちょっと疑問を感じていたこと、そして東御市が素敵な地域だからまた物件が欲しいと思っていたことが背景にあります。

3拠点生活をしていたころから東御市の物件情報をチェックしており、特に田沢地域にいい物件が出ればと思っていました。

セルフビルド中の物件を持ちながらも新しい情報は常にチェック

―なぜ田沢地域を気に入られたのですか?

「千曲川ワインバレー」として盛り上がっている地域だったからです。きっかけは作家の玉村豊男さんがこの地域でワイナリーを作ったことで、それを皮切りにワインバレーとして形作られていきました。

玉村さんはもう一つワイナリーを作ったのですが、そこにアカデミーを併設し、ワインの醸造やワイナリー経営を教えるようになりました。2022年の3月で7期生が卒業しましたが、卒業生たちがそれぞれの地元やこの地域でワインの生産者となり、今もどんどん盛り上げています。

 

―辻さんも、ワインに関する事業をしようと考えていたのですか?

それが、まったく思っていませんでした。私が考えていたのは、ワインで盛り上がっている地域で、物件を活かして新しい事業がしたいというものです。そんな時、2020年に現在シェアハウスとして運営している古民家を見つけました。

趣のある佇まいで、今や空室待ちも出る人気シェアハウスに

―そのシェアハウスについて、詳しく教えてください。

ライターを長くやっていると、「人々はどんな情報を求めているのか」というマーケティングの視点が身につきます。今回もそういった視点をもとに、「この地域で困っていることは何だろう」と考えました。

そこで情報を集めるために、購入した古民家を開放してオープン・ハウスのようにしました。ご近所の方に集まっていただき、「この辺に何がほしいですか?」「どんなことに困っていますか?」とヒアリングする中で出てきたキーワードが、シェアハウスです。

購入した物件の間取りはシェアハウスにぴったりでしたし、毎年ワインアカデミーの生徒が田沢に来るため、需要があるだろうと思いました。そしてなにより、自分自身が家探しに苦労したことも大きかったですね。東京にいながら家探しをするのは大変なので、これから東御市で暮らしたい人を一時的に迎え入れて、本格的な物件探しをする間の、仮住まいの場所を作ろうと思いました。


強みを活かして「移住先だからできること」を楽しむ 

―新しい土地で、ご自身の過去の経験やスキルを活かし、新しいビジネスを始められたんですね。移住の理想的な形だと感じます。

ありがとうございます。おかげさまで5部屋あるシェアハウスは満室状態が続き、お問い合わせもたくさんいただいています。

ワイン生産地として注目されるこのエリアではこのようなブドウ畑があちこちに見られる。

 新しい活動で言えば、シェアヴィンヤードという運営もしています。ヴィンヤードとはぶどう畑のことで、2021年から複数人で耕作放棄地にブドウの苗を植えて育て、最終的にはワインを造るという活動を始めました。きっかけはシェアハウスがある集落に雑草が伸び放題になっている耕作放棄地があり、近隣の畑がそこから飛んでくる虫の被害に遭って困っているという話を聞いたことです。

その耕作放棄地は、シェアハウスにしている古民家を売ってくれたオーナーさん(売主)のものだと分かったので私から連絡したら、「あそこが自分の土地だという認識はなかった」という話でした。そこから「お貸しするので、どなたか管理してください」ということになり、「それなら私が借りようかな」と思いました。

 

―さすがの決断力ですね。

友人から、「あの畑はすごくいいよ」と教えてもらっていたことも後押しでした。当時は畑の良し悪しなんてわからなかったのですが、形がいびつでなく日当たりのよい畑だったんです。

そこから話が進み契約の時に売主の方と現地に足を運んだら、なんと畑のサイズを勘違いしていたことがわかりました。思っていた倍の面積があって、非常にびっくりしました。そこで、「大きな物件を買ったときはみんなでシェアハウスをしたのだから、大きな畑があるならここもシェアすればいいのでは」と思い、ワイン好きが集まるこの地域でシェアヴィンヤードを始めました。

 

―行動力と決断力で、移住先ならではの事業に次々着手されていてすごいです。シェアハウスの時と同じく、やはりマーケティングの視点もあったのですか?

はい。野菜はプロの生産者と消費者の間に、家庭菜園という中間があります。でも、ワインを趣味で作っている方はいませんよね。でもワイン好きの人口は多いですから、作ってみたい方もいるはずだと思いました。

そこで首都圏の人を中心に会員を集め、「ぶどうを育ててワインを作る、大人の部活」というコンセプトでスタート。50人ほどの会員が集まり、来られるタイミングで来て、みんなで育てています。



持ち前のアクティブさと柔軟な考え方で、東京ではできない活動を次々と手掛ける辻さんに、後編では、移住までの経緯やシェアハウス、シェアヴィンヤードについてお話を伺いました。

後編はこちらhttps://tabisumu.jp/special/list/url16


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