【前編】岡山県・和気町を「推せる自治体」へ。元広告マンが実感した“聖地巡礼”企画のパワー漫画『推し武道』とのコラボ企画を手掛けた新井さん。企画実現までの経緯とは?
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移住を叶えた皆さんに、ご自身の移住体験について"ありのまま"を伺うインタビューシリーズ。今回は、関東から岡山県和気町へ移住した新井清隆(あらい・きよたか)さんにお話を伺いました。
新井さんは自身のこれまでの経歴をフルに活かして、和気町のPRに尽力。アニメ化、実写映画化された人気漫画『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(徳間書店)とコラボ展開するなど、大きな注目を集めています。移住を決めたきっかけや仕事への向き合い方、漫画やアニメの“聖地巡礼”と地域活性についてお話しいただきました。
文/住岡
激務の広告代理店を辞め、地域おこし協力隊へ
ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは新井さんが移住するまでの経歴を教えてください。
新井清隆さん(新井さん/以下同じ):出身は静岡県の伊東市です。就職を機に東京都に住み始め、フリーランスの編集やライター、カメラマンとして活動していました。その後、広告代理店に勤務しましたが、やはり激務でしたね。東京で日中仕事した後に10時間以上かけて地方に向かい、また日帰りで東京へ帰るなんてスケジュールもざらにありました。ただ、自分自身は仕事に打ち込む性質なので、すごく辛いという認識はなかったです(笑)。
広告代理店を33歳任期満了で辞めたあとは静岡県の伊東市で写真スタジオを経営しながら、フリーでプロモーションの仕事も行っていました。また、趣味であるビリヤード関連の仕事をしたり、自分の好きなことを仕事にしてきました。
ーー精力的に仕事に取り組まれていたんですね! 東京で活躍されていた新井さんが、和気町への移住を決意したきっかけは何だったのでしょうか。
新井さん:もともと地域活性化など社会貢献がしたいという願望があったことがきっかけですね。ただ、最初はこれといって移住したい地域について特に希望がなく、たまたま知り合いが和気町へ移住していたことを思い出したんです。色々と調べているうちに和気町が「地域おこし協力隊」を募集していることを発見し、地域おこし協力隊への参加を決意。和気町に移住することになりました。
ーー地域おこし協力隊とは?
新井さん:地域おこし協力隊は、都会の若者を地方に移住させ、過疎の抑制や地域振興を目的とした総務省が行っている制度です。
当時、和気町は空き家活用や情報発信を担当できるメンバーを募集していました。広告代理店に勤務していた頃、地域振興に関するプロジェクトに関わっていたことや、広報の仕事をしていたこともあったため、自分の経験を活かせると思いました。
ーーまさに新井さんのキャリアにぴったりですね。地域おこし協力隊では、どのような活動を行っていたのでしょうか。
着任当初はSNS更新や空き家バンクの運営を行っていました。写真撮影の腕を活かして、町内の風景写真などをSNSに掲載していましたが、プロモーションの仕事をしていた経験から、それだけでは「情報発信としては弱い」と分かっていました。地域おこし協力隊の任期はわずか3年。その短い期間で、最大限に効果を生むことを目標にしていました。
そこで、飛び込み営業をして街頭ビジョン8カ所の放映枠を無料で獲得。新宿や渋谷、高田馬場などの街頭ビジョンに和気町のPR映像を無料で放映することに成功しました。結果として、和気町の人にも喜ばれ、都民にも和気町の魅力をアピールできたと思います。
ボツ企画を発掘。「推せる自治体」を目指す
ーーその他にも、新井さんが関わった『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(以下:推し武道)との複製原画展展など、様々なコラボが複数のメディアに取り上げられるなど話題となりました。企画実現までの経緯を教えてください。
新井さん:『推し武道』は岡山県が舞台。地下アイドルを熱狂的に応援するファンを主人公にした、青春群像作品です。キャラクターの一人が和気町の出身だということを関連づけて、複製原画展を町内で開催しました。
この『推し武道』企画は、日笠さんという若手の町職員が発案したものです。一度ボツとなったその企画書を偶然発見したのですが、体裁のクオリティが低く、「ボツになるのも当然かも」というのが当時の正直な感想です(笑)。
ですが、その企画書の奥にある和気町に対する愛に大きな熱量を感じました。広告代理店やプロモーションの仕事をしていた経験から、「きれいな企画書」は見慣れていますが、「熱量を感じる企画書」に出会うことはなかなかない。不格好な企画書に心を突き動かされました。
今後、企画の規模がどんなに大きくなっても、日笠さんが考えた「若者が住み続けたいと思う町」「都会に出た若者がいつか帰ってきたいと思う町」――このふたつが、企画の核であることは変わりません。
新井さん:そこで、日笠さんの思いを聞き取り協力して企画書を作成し直し、『推し武道』を出版元である徳間書店へ開催を打診。打ち合わせの時、岡山県内でも目立たない立ち位置である和気町を分かりやすく説明するために、「自治体界の地下ドル」と呼んだことで、『推し武道』のコンセプトとも共通点があることも刺さり、徳間書店さんも全面的な協力を快諾。とんとん拍子に企画は実現しました。
ーー「和気町は自治体界の地下ドル」! いいキャッチコピーですね。
新井さん:例えば鎌倉、箱根、軽井沢などは、全国的にも有名ですが、「和気町」は名前も聞いたことがないという人が多いと思います。同じ人口が1万人台の町でも、箱根や軽井沢は全国的な知名度があり、いわば「メジャーアイドル」としたときに、魅力はあるけれども知名度の低い和気町は「地下アイドル」。
そんな地下アイドルの和気町だからこそ、『推し武道』コラボをやる意義があるというか。『推し武道』は地下アイドルを応援するファンの話じゃないですか。なので、『推し武道』ファンも応援してくれると信じていました。
5000人以上が来場! 地域のファンクラブも設立
ーーどのような企画が行われたのでしょうか。
新井さん:『推し武道』複製原画展を町内3会場に展開。200枚以上の複製原画が見られる、作品最大規模の展示会になりました。さらに、商工会や自然保護センターと共催したイベントを実施。グルメスタンプラリーやコラボスタンプラリーも実施。町内のほとんど全ての飲食店が参加するなど、町をあげてイベントを盛り上げてくれました。
また、発案者の日笠さんも、みずから『推し武道』の主人公・えりぴよさんのコスプレをし、イベントなどで和気町をPRするなど熱心に企画を推し進めてくれました。
新井さん:イベントが幕を開けると、期待した以上の多くなんと5,000人以上の方が訪れてくれ、なかには海外から参加した方も。イベント会場に設置したノートには、沢山のファンアートや愛があふれるメッセージで満たされ、期間中行われたアンケートに「和気町の職員として働きたい」と書いてくれた方もいて、感動しました。
複製原画展のあとも、常設の特別展示を設置したり、世界最大規模の同人誌即売会(コミケ)に出展したりするなど、作品を通したPR活動は積極的に行っています。和気町ファンクラブ会員数も約1500人に達し、効果を挙げられているのは嬉しいことですね。
ーー地域振興や社会貢献など、移住する前の目標は達成できたということでしょうか。
新井さん:たしかに『推し武道』企画は町民の理解や周囲のサポートのおかげで、大きな成功を納めました。しかし、個人的には道半ばだと思います。私の仕事は和気町の人口減少を食い止めるということで、『推し武道』企画もその一つの手段です。まだまだやれることはたくさんあると思っていて、さらなる和気町の魅力創出に尽力することがライフワークになっています。
(後編へ続く)
岡山県和気町ってどんな街?
は岡山県の南東部に位置する、人口約1万3,000人の小さなまち。瀬戸内地方の温暖な気候、地震・台風などの自然災害の少なさ、山・川に恵まれたおおらかな自然、電車・高速道路などの恵まれた交通アクセスなど、たくさんの魅力があります。また、子供達のための英語特区の導入や無料公営塾の運営など、教育環境の充実にも力を注いでいます。